〈映画情報〉
【原題】The Power of the Dog 【日本公開日】2021年11月19日(劇場)Netflix配信(12月1日)
【製作国】イギリス、オーストラリア、アメリカ、カナダ、ニュージーランド
【上映時間】125分【ジャンル】西部劇、恋愛【監督】ジェーン・カンピオン【脚本】ジェーン・カンピオン【原作】トマス・サヴェージの小説「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(1967)
【キャスト】
ベネディクト・カンバーバッチ、キルスティン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、コディ・スミット=マクフィー、トーマシン・マッケンジー、キース・キャラダイン、フランセス・コンロイ
峯丸ともかのイラスト映画紹介
『パワー・オブ・ザ・ドッグのレビュー』
牧場を経営するバーバンク兄弟は、外見と中身が真逆なのだ。兄のフィル(ベネディクト・カンバーバッチ)は、イェール大学卒の秀才だが自己中心的で冷酷な性格。カウボーイたちから尊敬されるカリスマ性があるものの、風呂が嫌いでいつも汚れた服を着ている。
弟のジョージ(ジェシー・プレモンス)は、おっとりとした性格で勉強が苦手らしく大学はドロップアウトしたが、いつもキチッとしたスーツを着こなす紳士で、街の人達にも親切に接する。
映画では、フィルがなぜ弟を含めた「他人」に対し、冷たく残酷に接するのか一切説明しない。それゆえ、「これから何か起こるのでは?」という不穏な空気に終始包まれている。映画を見続けていくと、フィルが人の感情を弄び、残酷にいじめることで、対象者の心を操っていく様子をみせられることになる。
特に、弟のジョージの妻となるローズ(キルスティン・ダンスト)は、まんまとフィルの術中にハマり、徐々に心が壊れていくのだ。映画が進むほど、鑑賞者は、フィルの残酷さを知り、彼がなぜそうなったのかを知るための情報を深めていくことになる。
フィルは、ローズをいじめながらも、新たな弄びの対象者を見つける。それが、ローズの息子ピーター(コディ・スミット=マクフィー)だ。長身のヤセ型で「お嬢ちゃん」とあだ名をつけられてしまう「か弱そう」なピーター。今度は、ピーターが大蛇に睨まれたウサギになってしまうのかと危惧した頃、フィルの気持ちに変化が起こる。そのきっかけは、ピーターが、山に「あるもの」を見つけたからなのだが……。
映画の最後には、「私の魂を剣から救い、犬の力から救い出してください。」という、聖書の詩篇第22篇20節が登場する。この詩篇の「犬の力」の部分がタイトルの「パワー・オブ・ザ・ドッグ」になっているのだ。にわか知識で調べたが、「わたしの神よ、なぜあなたは私を見捨てたのですか?」で始まる詩篇22編というのは、ユダヤ人の窮状と彼らの亡命中の苦痛と疎外を指していると解釈されているらしい。
詩篇の中では、犬の力という言葉は、いい意味では使われていない。犬の力に翻弄されている者。それは、いったい誰なのか、そしてその者を犬の力から救うのは誰なのか。神ではないことは確かだ。