『ライフ・ウィズ・ミュージック』のレビュー
映画の冒頭、本作の監督でもあるアーティストのSiaのオリジナル楽曲「Oh Body」のシーンから、一気に世界に引き込まれました。オレンジ色の空間で、ミュージック役のマディ・ジーグラーが踊る独特の動きに、心が奪われたのです。カラフルで楽しい音楽とダンスの映像は、まるで自閉症のミュージックの頭の中を覗いているようで、圧倒的な「ハッピー」が満ちていました。
現実世界で苦しいことがあったとき、音楽や映画、小説などの文化・芸術が心を助けてくれることがあります。
特にコロナ禍となり、外出制限を味わった2022年を生きるわたしは、芸術というものがあって、本当によかったと思うことが多々ありました。
本作では、登場人物の気持ちを、俳優が演技で魅せるドラマの部分と、音楽とダンスで表現するMVのような部分の2パターンで映像化しています。
アルコール依存で、自己肯定感の低い主人公のズー(ケイト・ハドソン)や、里親の元で暮らす隣人のフェリックス(ベト・カルヴィーロ)の日常を描く部分は、現実世界での厳しさや孤独を描く重い物語です。一方で、登場人物の心象風景は、カラフルな映像と楽しい音楽で彩られたファンタジーな世界が展開します。
現実世界の厳しさと、ポップな心象風景のイメージに落差を感じて、映画を見ながらわたしはずっと戸惑っていました。しかし、同時に、音楽とダンスの映像があまりにも楽しくて、もし自分の心の中を映像化できるとしたら、こんなふうにファンタジーで優しいものになってほしいとも思っていました。
優しいだけでは、現実の世界を生き抜いて行くのは厳しいかもしれません。でも、人生の厳しさに対抗するポップさは持ち続けていたい。例えば、白いお皿に目玉焼きを二つのせ、ケチャップで笑顔の口元を描くような、どんな時も、そういうユーモアの余地だけは残しておきたい。そんな手のひらサイズの希望が、ずっと心の中に残り続ける映画でした。
峯丸ともかのイラスト映画紹介
『ライフ・ウィズ・ミュージック』2022年2月25日(金)
TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
配給:フラッグ
〈STORY〉
孤独に生きるズーを救ったのは、ミュージックと居場所だった―
アルコール依存症のリハビリテーションプログラムを受け、孤独に生きるズー(ケイト・ハドソン)は、祖母の急死により、長らく会っていなかった自閉症の妹・ミュージック(マディ・ジーグラー)と暮らすことに。頭の中ではいつも音楽が鳴り響く色とりどりの世界が広がっているが、周囲の変化に敏感なミュージックとの生活に戸惑い、途方に暮れるズー。そこへアパートの隣人・エボ(レスリー・オドム・Jr.)が現れ、優しく手を差し伸べる。次第に3人での穏やかな日々に居心地の良さを覚え始めたズーは、孤独や弱さと向き合い、自身も少しずつ変わろうとしていくが……。
〈作品情報〉
【監督・製作・原案・脚本】 シーア
【出演】ケイト・ハドソン(『あの頃ペニー・レインと』)、マディ・ジーグラー(Sia「シャンデリア」MV)、
【原題】『MUSIC』 2021/アメリカ/107分/カラー/シネスコ/DCP/5.1ch/字幕翻訳:原田りえ/監修:山登敬之/【G】
【公式サイト】『ライフ・ウィズ・ミュージック』公式ページ
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