〈映画情報〉
【原題】윤희에게【日本公開日】2022年1月7日
【製作国】韓国
【上映時間】105分【ジャンル】恋愛【監督】イム・デヒョン【脚本】イム・デヒョン
【キャスト】
キム・ヒエ、中村優子、キム・ソヘ、ソン・ユビン、木野花、瀧内公美
映画『ユンヒへ』のレビュー
高校生の頃、なんとなく家に帰りたくなくて、ひとりで学校の教室に残っていたことがある。窓の外を見ると、大粒の雪がゆっくりと空から落ちてきた。シーンとした誰もいない校舎に、降り積もる雪。この光景を眺めている数分間、わたしの世界は完璧だった。
静寂に包まれた美しい風景を窓からながめていると、さらなる奇跡が起こった。窓の下に、帰宅をいそぐ人物が現れた。それは、当時憧れていたあの人だった。
雪の中を、早足で家路に向かっている。
わたしは、その人の姿を見た途端、荷物をかき集めて教室から飛び出した。「あの人と一緒に帰りたい。」この一心で、校門に向かったが、すでにあの人の姿はなく、自分の吐く白い息の音だけが、降り積もる雪の中に虚しく響いた。
「あの人と一緒に帰りたい」という欲望が、わたしの完璧だった世界を終わらせてしまった。
欲望と向き合ったとき、幻想(完璧な世界)は、終わりを告げてしまうということを知った。
『ユンヒへ』という映画をみて、このエピソードを思い出した。
この映画は、高校時代の恋愛対象だった相手を、40代になって懐かしく思う二人の女性の物語だ。
主人公のユンヒとジュンが、どこまでの恋愛関係だったかは、詳しく語られない。女性が女性を好きになることは、「ありえない」と位置づけされてしまう時代に、二人は出会っていた。
20年以上も、相手への思いを封印してきたふたり。ところが、ある手紙がきっかけで、この封印してきた思いが、表に飛び出すことになる。ユンヒとジュンは、長年抑えてきた欲望を目にすることになり、どのように対処するのだろう。映画の中で、ふたりはなかなか出会わない。
時代は、少しずつだが変わってきている。20年前は、表に出せなかった恋愛感情だとしても、理解を示す人も増えてはいる。『ユンヒへ』は、レズビアンのラブストーリーであるのと同時に、人が人を思いやること、気遣いと愛情、大切な人の幸せを願う気持ちを繊細に描いた優しい映画だった。
峯丸ともかのイラスト映画紹介
『ユンヒへ』2022 年1月7日(金)シネマート新宿ほか全国ロードショー
『ユンヒへ』公式ページ
〈文・イラスト:峯丸ともか〉